東京ワインコンプレックス(Tokyo Wine Complex)

ヨーロッパのワイナリーの概念そのものを、那須の地に実現させたい!

〈渡邊葡萄園醸造〉渡邊嘉也さん


綺羅星のような経験を積んだ若き日本人醸造家

 ボルドー大学留学の後、かの有名な〈シャトー・ピション・ロングウィル・コンテス・ド・ラランド〉に勤務、さらに世界的に活躍するワインコンサルタントのミシェル・ロランと共にサンテミリオンのシンデレラワイン〈シャトー・ヴァランドロー〉に携わり、またピション・ラランドが運営する〈シャトー・ベルナドット〉の立ち上げにも加わるなど、醸造家として綺羅星のような経験を積み重ねた人物が…なんと日本にいらっしゃいます。
 栃木県の那須塩原において百二十年もの歴史を誇る老舗「渡邊葡萄園醸造」の四代目当主 渡邊嘉也さんです。
 控えめでシャイな渡邊さんは、決して経歴をひけらかしたりはしません。むしろ、謙虚すぎるほど謙虚に、日本でワインを造ることがいかに難しいかを、呟くように語ります。一見ボヤきのようなそのお話しの奥には、実は燃え盛る情熱が秘められているのです。
ある意味、とても醸造家らしい醸造家といえるでしょう。ただ黙々と真面目なワイン造りにいそしむ職人肌…ヨーロッパの田舎にでもいそうな、お人柄なのです。
そんな渡邊さんの夢は、
 「日本にワイナリーを作りたい。」
一見シンプルなこの言葉の裏側には、世界の表舞台で経験を積んだ醸造家にして、日本でも指折りの伝統を誇る葡萄園の当主ならではの、深い思い入れが込められています。

シンプルな夢の奥に秘めた熱く深い思い

 長く、日本酒をベースに酒造りが行われてきた日本では、さまざまな規範が日本酒に則して定められています。  例えば、渡邊さんの造るワインのラベルには、「那須ワイン」「渡邊葡萄園醸造」「WATANABE VIN-YARD」などの記載があります。「那須ワイン」は日本酒でいえば「○○正宗」「△△泉」などのブランド名、「渡邊葡萄園醸造」は「◇◇本家」「××酒造株式会社」などの造り手名に相当します。
日本酒の世界では、原材料である米の作り手と、酒の造り手は別人であることが普通。栽培と醸造は、基本的に分業です。
「ヨーロッパでは、プレミアムワインであればあるほど、原材料の造り手が、酒の造り手でもあるということが基本。さらに造り手は、ブランドの構築者でもある。ここが、日本酒と大きく違う点です。原材料を供給する畑、ワインを造る醸造設備、マーケティング戦略を練る部門、すべてが揃ってワイナリーという概念ができあがっています。そういう、ヨーロッパのワイナリーという概念そのものを、先祖代々継承してきたうちの畑で実現させたい、というのが私の願いなんです。『WATANABE VIN-YARD』という記載には、そんな希望が込められているんですよ。」

ボルドーを超越する超マイクロ・キュヴェ

渡邊さんのワインの原料となる葡萄は、すべて自社畑のもの。四ヘクタールにのぼるその畑には、先代から受け次いだ棚づくりの古樹と、渡邊さんがボルドーから取り寄せた選りすぐりの国際品種が共存しています。
「この那須の土地に長く根ざしたナイアガラやベリーAと、フランスから取り寄せたペトリュスやオーゾンヌのクローン。全く異質な系統の葡萄ですが、どちらもこの那須の地で育むことによって、他では見られない特徴が表現できます。」
雨や湿気の多い日本は、そもそもワイン用葡萄には不向きな土地。素晴らしい葡萄を育てるためには、丁寧に剪定して風通しをよくするなど、細かな配慮が欠かせません。原材料生産者と醸造家を切り離しては考えられない…という渡邊さんのこだわりは、こうした作業を通じて培われ、強くなっていったのだろうと想像に難くありません。
「日本にワイナリーを…」と標榜する渡邊さんですが、とはいえ目指しているのは、単なるヨーロッパの模倣ではありません。
例えば、湿度の高い日本では従来、風通しの良い棚作りで葡萄が栽培されてきました。この他にも棚作りのメリットは、一本の樹から沢山の葡萄を収穫することができるという点が挙げられます。こうした日本ならではの条件を活かして渡邊さんは、シングルヴィンヤードならぬ、一本の樹から収穫できる葡萄のみを用いたシングルウッドワインさえ試みようとしています。これほど贅沢な超マイクロキュヴェは、世界にもほとんど類例がありません。
「ボルドーで学んだことを活かして、ボルドーでもできないことを、この那須の地でやってみたい!」
この地のテロワールを知り尽くし、ボルドー生粋の醸造技術をほしいままにする渡邊さんだからこその挑戦は、「毎年の試行錯誤で階段をのぼるように経験値を積み上げてゆく進歩には目を見張るものがある」…と、専門家の間でももっぱらの評判です。 そんな那須ワインの特徴をひと言で表現するなら、それは「日本の土が育んだやさしさでありやわらかさ」だと渡邊さんはいいます。
「好きなワインがみつかったら、異なるヴィンテージを飲んでみてください。テロワールは本質を、ヴィンテージは雰囲気を表現します。異なるヴィンテージを何種類か経験すると、すべてに相通じる香りや味わいが見えてくる…それが、私のヴィンヤードの土の香りなのです。」
たとえば外国の方から、「日本でもワインを造っているの?」と訊かれたら、「もちろん!」と誇らしくおすすめしたい、そんな日本の那須ワインです。

インタビュー・文:高山宗東

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