東京ワインコンプレックス(Tokyo Wine Complex)

まるで良い音楽のように細胞にしみながら
すんなりと身体に入ってゆくワインを…

〈株式会社 日野屋〉荻野義典さん


業界七不思議
〈日野屋〉さんのワイン

 どこか下町の風情がただよう、東急目黒線沿線の西小山駅。賑やかな商店街を抜け、住宅地を少し歩いた静かなたたずまいの町角に、ドイツとボルドーのワインに特化したインポートで知られる〈日野屋〉さんがあります。
創業は昭和八(1936)年。現代表取締役の荻野義典さんで三代目。荻野さんは幼い頃から、「創業者である祖父さんに洗脳されて、将来は酒屋になるものと信じて疑わなかった」そうです。
〈日野屋〉さんといえば、業界では「ワインの状態が、とても良い」と、ひそかな評判をよんでいます。どういうわけか、産地も、銘柄も、造り手も同じワインであっても、〈日野屋〉さんがインポートしたものは格段に美味しい…と、これは、知るひとぞしる、業界七不思議(後の六つはなんだろう?^_^;)のひとつです。

どんなに素晴らしいワインでも扱いがまずければ、
真価は発揮できない

 「ひと口に、リーファー・コンテナといっても、ケース・バイ・ケースで大きな違いがあります。例えばボルドー地方の気温ですが…三月でも気温が三十度を超える日もあり、ワイナリーから港までは陸送するわけですから、そんな時に冷蔵設備を持たない車を使ったら、その後、いくらリーファー・コンテナを使用しても、ね…。」
 と、荻野さん。〈日野屋〉さんではあらかじめ、あらゆる状況を想定して、きちんと冷蔵設備を搭載した陸送車を手配します。また、荷の中に特殊な温度計を仕込んでおくため、日本に到着後、温度計に蓄積されたデータを解析すれば、運ばれている間の温度変化を一目瞭然にチェックすることができるそうです。
 ただし、このような入念な方法をとると、運送コストは通常の三〜四倍かかってしまうのですが、それでもワインのためには、「必要なこと」――老舗酒販店であった〈日野屋〉さんがインポートをはじめたのは、平成元年。せっかく輸入したワインがすべてダメになっていた…というような苦い経験を積み重ねながら、ようやく完成した満足のゆく運送ノウハウに、あくまでもこだわる荻野さんです。

最高の状態で運ばれたワインをさらに磨き上げる秘密の空間

 これほど入念にリスクを回避して輸入されたワインだからこそ美味しい…と、結論を急いではいけません。今回お訪ねして、七不思議の秘密の、さらに重大な秘密が、解ってしまいました!  〈日野屋〉さんの地下には、47坪(広い!)のセラーがあります。それも、年間平均十九度に保たれた天然の冷蔵庫。一部、空調設備も整えてあるそうですが、基本的にはナチュラルで、ワインにとって理想的な揺り籠になっているそうです。これが、「何故か美味しい〈日野屋〉さんのワイン」の秘密でした。
 「ワイナリーで試飲する時、僕はいつも、このワインを、少なくとも一年以上、うちのセラーで寝かせたらどうなるだろう?と、想像するんです。その時はまだ、粗かったり、酸っぱかったりしていても、得てしてそういうワインこそ大化けする。買って、運んで、すぐ売る…なんてことはしたくないのでね。」
 短くて一年、長いものでは十年以上〈日野屋〉さんのナチュラルなセラーで寝かされ、繊細な熟成を重ねたワインは、もはや同アイテムであっても、他に一切同じものが存在しない別物です。こうなると、インポーターさんというより、ネゴシアンとお呼びする方が相応しいかもしれませんね。
 〈日野屋〉さんが、ドイツワインとボルドーワインに特化しているのも、熟成に耐えるエレガントな酸や、精緻なストラクチャーを追い求めた、結果だといいます。

音楽が趣味のインポーターではなく、ワインを扱うミュージシャン

 ところで、荻野さん。とても背が高く、指が長いので、バレーボールでもしていらしたのかな?と思ってお尋ねしたところ、なんと学生時代から現在に至るまで、プロミュージシャンとして活躍されているとのこと。宇崎竜堂&阿木耀子御夫妻の後輩にあたり、おふたりとのコラボライブも、定期的におこなわれているそうです。
 バンド名「テキサス・カンパニー」、もちろんカントリー・ミュージックです。荻野さんはスティール・ギターの担当で、ここ二十年以上、大晦日は必ず年越しライヴ。「大掃除を、少しも手伝ってくれないんですよ」と、奥様が笑いながらボヤいておられました。
 業界で評判の〈日野屋〉さんのワインの美味しさの秘密は、時間と空間を贅沢に使った熟成の賜物でした。それは、荻野さんの言葉を借りれば「細胞に染みわたるように、すんなりと身体に入ってゆく」ワイン。
なあるほど…良い音楽を聴いた時の感覚に、通じていますね。
インポートという経済活動にも、芸術的センスは活かすことができる――そんなことを学ばせていただいた、インポーター訪問でした!

インタビュー・文:高山宗東[2009.06.10]

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